研究概要 |
我々は,エイズの原因ウイルスであるHIVプロテアーゼの阻害剤の基質遷移状態コンセプトを基盤として分子設計を行ない,酵素は阻害剤の結合に必要な最小阻害活性部位の探索や高い酵素阻害活性を持つ化合物(KNI-272)の合成に成功した.この成功は,酵素反応のメカニズムに着目して,酵素・基質複合体および酵素・阻害剤複合体のコンフォメーションを解析し,酵素分子活性中心の基質遷移状態のコンフォメーションを固定したミミックをデザインするという新しく論理的な方法を用いたことによるところが大きい.この方法をさらに発展させて,活性型コンフォメーションに構造規制された阻害剤の分子設計と合成を行った. 1.変異HIVプロテアーゼの合成 変異HIV-プロテアーゼにおいて84位IleがValに置換されており,3次元構造からこれはP1ならびP1'と相互作用していることがわかっているので,84位をValに変換した誘導体を合成し酵素活性を検討した. 2.HIVプロテアーゼ活性部位誘導体の合成. 基質との相互作用に関与している25位アスパラギン酸をイソステリックなアミノ酸に変換した誘導体を合成した.HIVプロテアーゼは二量体として働くので,もとの酵素とイソステリック誘導体との組み合わせ,イソステリック誘導体のみの組み合わせについても検討した. 3.阻害剤の合成. 遷移状態誘導体の概念に基づいてレトロウイルスに特徴的な基質の切断部位Phe-ProおよびTyr-Pro(P1-P1')のアミド結合をイソステリックな還元型,ヒドロキシエチレン型,ジヒドロキシエチレン型等に変換し,各基質遷移状態誘導体を合成した.さらに,リジドな構造を持つジペプチド誘導体をデザインし,合成した. 4.NMRと分子モデリングにより,コンフォメーション解析および酵素と基質複合体の構造解析を行った. 5.複合体形成と解析,X線解析,NMRによりこの酵素蛋白とインヒビターの複合体の構造解析を行い,相互作用に水分子が重要な役割をはたすこと,高活性阻害剤のコンフォメーションが制約されていることを見いだした.
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