研究概要 |
臨床の場で,多くの蚤痒性疾患の痒みが抗ヒスタミン薬で抑制されないとの指摘がなされているにも拘らず,肥満細胞から放出されるhistamineが痒みの主要なメディエーターであるとする古典的な考えがまだ一般的である。本研究では,皮膚における痒みの発生機序を明らかにする目的で,皮膚において一次求心線維や肥満細胞などから放出される可能性のある内因性物質の中に起痒作用を示す物質を検索した。Histamine (100nmol/site)の皮内注射は,ICR系のマウスでは痒み関連行動(引っ掻き行動)を惹起したが、ddY, BALB/c, C57/BL, WBB6F1+/+, CH3/Heの各系統のマウスでは明らかな痒み関連行動惹起作用が認められなかった。Serotoninは,ICR系とddY系で同程度の痒み関連行動惹起作用を示した。その他の内因性物質では,substance P, dynorphin A(1-13)とsomatostatinが,ICR系マウスに明らかに痒み関連行動を惹起した。一方,VIP, CGRP, neurokinin A, neurokinin B, PAFには調べた用量の範囲では必ずしも明らかな痒み関連行動惹起作用が認められなかった。Substance P及びserotoninがICR系マウスに惹起する引っ掻き行動惹起作動は,ヒトにおける痒みの性質と類似した性質を有していたので,痒みの感覚に起因した反応である可能性が高いと考えられる。Dynorphin A(1-13)の作用は,substance Pあるいはsomatostatinと概ね相加的であった。内因性物質ではないがヒトで痒みを惹起することが知られているmorphineは,皮膚に作用するよりもむしろ大槽内注射で痒み関連行動を惹起したので,オピオイドμ-受容体の内在性リガンドは末梢よりもむしろ中枢神経系において痒みに関与する可能性の方が強いと考えられる。L-arginineは,それ自身は痒み関連行動を惹起しないがsubstance Pの痒み関連行動惹起作用を増大した。
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