研究概要 |
本研究では,まず認知心理学・科学哲学・理科教育学より統合的・学際的に理論的研究を行った後,当該領域には例のない地道な実証的研究を行った。 初年度には,振り子の運動を題材として,数カ月間,現地に滞在し,幼稚園児の5歳児から88歳の高齢者を対象に,年齢的横断的に調査を行った。その結果,学校理科学習の効果は,30代,40代の大人においても持続的に機能しており,従来考えられた以上に学校理科学習による教育的介入の効果が持続的であることが示された。また,学校理科学習の効果は,単なる科学概念の獲得にとどまらず,メタサイエンスのような科学についての概念の獲得にも影響を及ぼしている可能性が示唆された。 次年度には,単純電気回路を題材とし,富山県と佐賀県といったサンプルとされた県内全中学校を対象として単純電気回路の認知に及ぼす文脈依存性に関する調査を行った。その結果,まず,学習者の居住地域や負荷の違いは,単純電気回路の認知に影響を及ぼしているようには見えず,むしろ,学校理科による教育的加入や調査手続が影響していることが示された。つまり,認知研究には調査方法が敏感に効いてくる可能性が示唆されると同時に,今後,認知論的に理科学習を考えていく上で,生得的な要因及び教育的介入のあり方を再考する必要性が確認された。 さらに、両年度を通じて,教室という混沌(カオス)の中で現場の先生方と叱咤激励しあいながら共同実践を行った。こうした本研究の成果は,アメリカやイギリスで関連領域の研究者よりレビューを受け,我が国ばかりでなく,世界的にも極めて例の少ない報告としてまとめられた。
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