研究概要 |
本研究は,日本海堆積物のピストンコア試料子を用いた高精度古環境解析を通じて,日本海の古海洋環境・古海洋循環がダンスガードサイクルに応答してどの様に変動してきたかを明らかにすることを目的として行われた.試料には,1994年に秋田沖で採取されたピストンコアKT94-15-PC5およびPC9の2本のコアを用い,鉱物・化学的分析,堆積構造の解析,微化石分析を通じて,日本海表層水の性格,底層水の溶存酸素レベルの推定,大陸からの風成塵のフラックスの推定を行い,それらの時間的,空間(深度)的変動の相互関係を検討することにより,a)日本海表層水の性格,底水層の溶存酸素濃度がダンスガードサイクルに応答してどのように変動したか,b)それらの間の相互関係,位相関係は,どのようでったか,c)黄砂フラックスに象徴されるアジア大陸内部の気候との相互関係,位相関係はどのようであったかを検討した. 検討の結果,1)暗色層は例外なくD-Ocycleの亜間氷期に対応している事,2)暗色層は例外なく平行葉理を保存しており,その堆積時には底層水は還元化した事,3)風成塵の含有量の増加は暗色層の堆積開始と動じであるか1試料分(600年程度)ずれる事,4)暗色層の堆積速度はその上下の明色層に比べて遅く,風成塵フラックスも暗色層中で減少するらしい事,が明らかになった.これらの結果,D-O-cycleの亜間氷期に東アジア内陸部が湿潤化した事を示す.また,暗色層堆積開始より風成塵含有量の減少が600年程度ずれる場合があることは,分析値が2.5mの層序間隔の平均値であることで説明できるだろう.ODP Site797において,およそ1500年の試料間隔での解析に基づき,以前に多田(1997)が報告した暗色層堆積と黄砂含有量減少の約1500年の位相のずれは,試料間隔の粗さに起因する見かけのずれである可能性が高い.
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