研究概要 |
光回復酵素(photolyase)はDNA修復酵素の一つで,紫外線によってDNAに生じる損傷であるピリミジン二量に結合し,その後に吸収する光のエネルギーを用いて元の単量体に修復する.細菌型の光回復酵素には2種類の欠分子が含まれる.DNA修復反応に直接関与するとされる触媒補欠分子は,多くの種で共通してFADである.方,可視光を吸収して,そのエネルギーを触媒補欠分子FADに伝達する集光補欠分子は種によって異なり,デザフラビン型のもの,プテリン型のものが知られる.本研究は,デアザフラビン型の集光補欠分子(8-hydroxy deazaflavin)を有するラン色細菌Anacystis nidulans由来の光回復酵素(分子量53,000)の立体構造をX線構造解析より決定し,光によるDNA修復の分子機構を原子レベルで理解しようとするものである.多重同型置換法によて得られた結晶構造のモデルを精密化し,シンクロトロン放射光で測定した6.0-1.8Å分解能の回折強度反射42,8個に対してR値0.197が得られた,分子はα/βおよびヘリカルドメインという2つのドメインからなり,そのフォルディングは,プテリン型集光補欠分子,5,10-methenyltetrahydorofolic acidを持つ大腸菌由来の酵素とよく似てい両者の一次構造の相同性は約52%であり,触媒補欠分子FADの結合は,周辺のアミノ酸残基との接触を含めてとんど同じであった.ところがα/βドメインにある集光補欠分子の結合位置は両者でまったく異なっていた.こ部分もアミノ酸の相同性は両者で保持されており,保存されていない僅かの異なるアミノ酸が,それぞれで異る集光補欠分子の認識に重要な役割を果たしていることがわかった.これは相同なアミノ酸配列が,異なる補分子を認識・結合している希な例であり,この集光補欠分子の結合の違いが,両者における補欠分子間のエネギ-伝達効率にも密接に関係していると思われる.
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