研究概要 |
私たちは、皮質の層構造が特異的に異常になるリーラー(reeler)ミュータントマウスを使って,正常動物には存在しリーラーには欠落する物質を認識するモノクローナル抗体CR-50を分離した(Ogawa et al.,Neuron14,899-912,1995).本研究ではこの抗体の抗原分子の同定ならびに同分子の皮質構築における作用機構を検討した. 1.リーリン(Reelin)とCR-50の関係:リーラーの原因遺伝子がreelinで、その翻訳産物がリーリン(Reelin)であることが,Curranらによって明らかにされた.Curranらと共同でリーリンとCR-50の関係を調べた.その結果,CR-50Nはリーリン蛋白質そのもののN末端近辺を認識することを明らかにした. 2.小脳Purkinje細胞の空間配列とリーリンの関係:小脳のPukinje細胞は,分子層と顆粒細胞層の境界部に整然と1列に並んで存在する.この細胞の配列が,顆粒細胞から一過性に分泌されるリーリンによって制御されていることを明らかにした. 3.海馬錐体細胞層の形成とリーリンの関係:海馬アンモン角の錐体細胞は,髄膜側表面に並行して密集し,一つの細胞層をなして存在する.この細胞層の形成が,辺縁(分子)層の外側に局在するCajal-Retzius細胞から特異的に分泌されるリーリンによって制御されていることを明らかにした. 4.線維投射とリーリンの関係:リーラーにおいては,神経細胞の異常配列に加えて神経回路にも異常がみられる.この異常は,神経細胞の配列異常に基ずく二次的なものか,あるいは,リーリンが直接に関係する現象であるのかこれまで明らかにされていない.内嗅野と海馬の共培養系を用いて,前者から後者への神経投射に対するリーリンの関係を検討した.その結果,海馬のCajal-Retzius細胞から分泌されるリーリンが,神経回路形成にも直接に関わっていることを示した.
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