研究概要 |
中枢ニューロンは未分化幹細胞から分化すると同時に増殖能を失い,個体の生涯を通して再び分裂をすることはない.この分裂終了はニューロンの示す形質の内で最も基本的かつ重要なものであるが,その分子機構については現在のところ全く不明である.本研究では神経分化に特異的に発現する蛋白質necdinを中心にして,ニューロン分化に伴う分裂終了機構を解析し,以下の成果を得た.[1]NecdinはDNAがんウイルスがん蛋白質であるSV40 largeT抗原やアデノウイルスE1Aと結合し,がん抑制遺伝子産物であるレチノブラストーマ蛋白質(Rb)の性質と類似していた.[2]NecdinはRbと同様に細胞増殖を制御する細胞性転写因子E2F1と結合して,DNA複製に関与する種々の遺伝子の発現を抑制した.[3]Rbを欠損するSAOS2細胞にnecdin遺伝子を導入すると細胞増殖が抑制されるため,necdinは機能的にRbの代用となることがわかった.[4]組換えnecdin蛋白質に対する抗体を用いて,マウス脳内のnecdinの分布を調べたところ,necdinは殆どのニューロンの細胞質に存在し,特に視床下部ニューロンが高濃度のnecdinを含んでいた.[5]ヒトnecdin遺伝子の構造と機能を調べたところ,その5'近位上流にCpG islandが存在し,この部位をメチル化すると転写活性が抑制された.[6]ヒトnecdin遺伝子はゲノムインプリンティングが関与する視床下部ニューロンの発達異常症として知られるプラダー・ウィリ症候群の原因遺伝子の局在部位15q11-q12に存在した.[7]以上の結果,necdinはRbと同様な機構でニューロンの細胞分裂を抑制すること,また,その遺伝子が欠損するとニューロン分化が障害される可能性が示唆された.
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