研究概要 |
脳の形成プログラムの解明は遺伝子工学の進歩とともに飛躍的に進んでいるが、こと哺乳類の脳の発生に関しては、胎仔への外科的アプローチが容易でないため、授精卵レベルの遺伝子操作や組織培養に頼らざるを得ない状況である。この問題を解決するために、我々は今回、全胚培養法をもちいてマウス胎仔の脳内に遺伝子を直接的に導入することを考えた。そのような実験系を適応するため、まず、マウス脳の正常形成過程の分子メカニズムを、各種活性分子の免疫組織化学や蛍光標識法などの形態学的手法を用いて調べ、神経接着分子であるNCAM-H、L1、TAG-1、それに脳の発生過程に豊富に存在するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるニューロカンとフォスファカンが、発生過程の中脳や間脳視床下部でニューロンの移動と定着に重要な役割を果たすことを明らかにしてきた(川野、大山、湯浅、川村。西村書店、1997;Ohyana,Kawano,Asou,Fukuda,Oohira,Uyemura,Kawamura,Dev.Brain Res.1998 印刷中;川野ら、神経内分泌学会、1997年11月発表済み)。これらの観察結果をもとにして、本研究では、二宮(1992)によって開発された全胚培養法をもちいて胎生10日のマウス脳室内微量注入によって、分子機能や遺伝子発現を操作することで実験的に大脳皮質の形成メカニズムを調べることを試みた。その結果、子宮外手術によってマウス胎仔脳室内に各種の酵素、抗体、oligoDNAなどを注入し、数日間母体内で生存させることに成功した。本研究の成果は、今後、特定のDNAを脳内に導入することによる、いでんしの発現増強あるいは発現抑制を可能にするものであり、脳の発生過程における各遺伝子の機能を特定する方法として、その有効性が注目される。
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