研究概要 |
全身性カルニチン欠乏症JVSマウスは個体としては脂肪肝,高アンモニア血症,低血糖症,心肥大,骨格筋変性,雄性不妊など種々の症状を示す。このような症状の発現機構を明らかにすることによって従来不明な点が多かった,カルニチンの役割を解明することが可能と考えられる。この研究ではJVSマウスの示す病態を初期培養細胞,株化細胞からどの程度類推できるかを検討するため,株化細胞でのカルニチン摂取と組織レベルでの異常を検討した結果,以下の知見を得たが,細胞レベルからこのマウスが示す種々な症状を推定するためには細胞培養実験系の進展が必要であり,現在では細胞系の実験からではカルニチンの生体での役割を解明するのは困難であると結論された。 1.生後2週齢より心重量の増加がみられ,心筋ではその肥大,核の増大,ミトコンドリアの著明な増加をもった細胞も認められた。また、カルニチンパルミトルントランスフェラーゼ(CPT)I,IIのmRNAの発現異常が見られた。 2.初代培養胎仔細胞,それから確立した株化線維芽細胞においても高親和性カルニチン輸送活性が低下しており,JVSマウスの劣性原因遺伝子の遺伝子量にしたがって輸送活性が低下していることが明らかになった。 3.雄は殆ど不妊であるが,その原因は精巣における精子形成にあるのではなく,精巣から精巣上体を経由する間に異常が生ずることを示唆する結果が得られた。 4.低温環境での体温調節機能に低下があり、カルニチン投与によってこれが改善されることが明らかになった。 5.経口あるいは静脈に投与後の遊離カルニチンの分布容積は正常マウスに比べて有意に低値を示し,脳を除いた主要組織(肝臓,腎臓,腸,心臓,筋肉,肺,脾臓)の組織-血漿中濃度比も有意に低く,経口投与後のバイオアベイラビリティ(BA)は正常マウスの約50%であった。
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