研究概要 |
酵素は穏和な条件で特異な反応を生体内で触媒することから,工業的にも広く用いられている。しかしながら,pHや温度などの環境変化により容易に失活することから,酵素の安定化が望まれてきた。本研究においては,側鎖に糖を有する高分子を合成し,この高分子を単に系に添加するだけで酵素が安定化することを見出し,検討を進めた。その結果,本系において,作用,構造を全く異にする酵素,たとえばトリプシン,乳酸脱水素酵素,リゾチーム,アミラーゼが安定化されることを見出した。この際,pH,温度,凍結,保存安定性を向上させることに成功し,酵素の汎用安定化剤として有用であることを見出した。この際,添加剤としての側鎖に糖を有する高分子の濃度は高々1wt%程度である。従って,工業的にも十分対応できるシステムの構築が可能となった。また,安定化のメカニズムについて,核磁気共鳴スペクトル,液体クロマトグラフ,熱分析,滴定分析を進め,速度論的解析を行った結果,添加した高分子が酵素の触媒反応に直接関与すると共に,酵素の構造変化を抑制することを明らかにした。従って,本研究の3年間の研究目的,すなわち「側鎖に糖を有する高分子による酵素の安定化とその機構」は十分達成されたと言うことができる。今後,ここで得られた知見に基づき,酵素の固定化マトリックスとして本高分子系を採用し,単に酵素を担体に固定化するだけでなく,同時に酵素の安定化をはかり,さらに,ゲル膜としてのバイオリアクターシステムの構築を目指して研究を発展させつつある。
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