研究概要 |
本研究では,以下のような成果を得ることができた. 1. イタボヤ類におけるallorecognitionでは,allo認識部位の違いに加えて,拒絶反応で中心的役割をする血球種の違い,そして,同じ血球種でも種によって機能に差があることが,種による発現様式の多様性をもたらす原因となっていることを示した. 2. イタボヤ類にもっとも近縁なコバンイタボヤの拒絶反応の観察から,イタボヤ類における拒絶反応では,モルラ細胞と呼ばれる血球が関与する反応が最も古いものと推測された.さらに,rDNAの塩基配列からイタボヤ類の系統進化を調べた結果,allorecognitionにおける拒絶反応様式の多様性から推論された系統進化とほぼ一致することが明らかになった. 3. ウスイタボヤ(Botryllus schlosseri)において,allo群体の感作を受けた血球に,特異的に,または,より多く発現しているmRNAのcDNA Libraryをサブトラクション法を用いて作成し,23種の有効なcDNAを得,これら遺伝子の組織内での発現を調べるためにin situハイブリダイゼーション法を確立した.そして,得られた23の遺伝子のうち,ほ乳類の免疫関連遺伝子に類似性を持つものが6つあることが明らかとなった.これら免疫関連遺伝子のcDNAの中から,ほ乳類のMHCIIIにリンクしたヒートショックタンパク質HSP70に非常に高い類似性を持つ遺伝子で,既知のB.schlosseri HSP70.1とHSP70.2の遺伝子とは異なる遺伝子を発見した.これまでに推定全長約3kbのうち900base程が判明し、この配列はほ乳類のMHCIII関連HSP70に塩基配列で77%,アミノ酸配列で83%の相同性があった.このHSP70類似タンパク質の拒絶反応時における組織内での分布やその役割については,今後,in situハイブリダイゼーションなどで詳細に調べたい.
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