研究概要 |
ニシキギ科クロズルは古くから抗リュウマチ作用を有することが知られており,その薬効成分であるトリプトキノン類は民間療法にクロズルが用いられてきた実績による安全性と,抗炎症作用を始めとする幅広い薬理効果が期待できる。そこでトリプトキノン類のエンドトキシン(LPS)及びinterleulin-1(IL-1)による平滑筋内誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を中心に,併せて内皮における構成型NO合成酵素(cNOS)の活性化に関与する内皮内Ca2^+動態に対する効果について検討した。摘出血管標本あるいは培養血管平滑筋細胞において,トリプトキノン誘導体の一つであるトリプトキノンA(TQA)はLPSもしくはIL-1によるアルギニンを介した血管弛緩反応,cGMP産生,NO_<2->蓄積およびiNOSmRNAの発現を抑制し,その抑制機序がiNOS遺伝子発現に至るまでの過程を阻害することによることを明らかにした。また我々はTQAに類似する構造を持つチロシンキナーゼ阻害薬herbimycinAが,TQAと同様な機序でiNOS遺伝子発現抑制作用を持つことを示し,さらに各種TQA誘導体を合成し,その構造活性相関について検討したところ両薬物に共通するキノイド構造がiNOS誘導阻害に必須であることも明らかにした。また内皮細胞のcNOSに対する作用も検討し,cNOSによるNO産生をTQA,チロシンキナーゼ阻害薬はやはり共に抑制し、抑制部位も細胞内へのCa2^+流入以前であるという点で一致した。そこで抗ホスホチロシン抗体を用いたWestern blot法により,A431細胞のEGFによる同受容体の自己チロジン・リン酸化に対する効果を検討したところ,TQAは少なくともEGF受容体が持つチロジン・キナーゼ活性を阻害する効力を有し,上記の我々の推論と一致する結果を得た。
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