研究概要 |
Reg(regeneating gene)は研究代表者らにより膵ランゲルハンス島の再生・増殖時に特異的に発現する遺伝子として分離された。本研究の目的は、Reg遺伝子(RegI遺伝子)を遺伝子標的により欠損したマウスを作製し、Reg遺伝子の機能をin vivoで明らかにするとともに、このReg遺伝子欠損マウスを膵疾患・糖尿病の新たなモデル動物として開発することである。平成8,9年度の研究により以下の成果が得られた。 1.染色体上のRegI遺伝子が変異遺伝子と相同組み換えにより入れ替わったRegI遺伝子欠損キメラマウスを作製した。このキメラマウスを交配させ安定に変異遺伝子を受け継ぐRegI遺伝子欠損へテロマウスを、さらにヘテロマウスをかけ合わせRegI遺伝子欠損ホモマウスを得た。2.1.で得られたRegI遺伝子欠損マウスの膵ランゲルハンス島β細胞を中心とする各種臓器の形態、血糖値・血中インスリン量には、コントロールマウスとの間で顕著な差は認められなかった。3.aurothioglucose投与による膵β細胞の増殖を伴う肥満モデルにおいて、Reg遺伝子欠損マウスのランゲルハンス島はコントロールマウスに比較して有意に小さいことから、RegI遺伝子欠損マウスでは膵β細胞の増殖能が低下していることが明らかとなった。従ってRegI遺伝子欠損マウスではランゲルハンス島の負荷に対する抵抗性が低下しており、ヒトのインスリン非依存型糖尿病のモデル動物として有用となる可能性が考えられた。4.ethionine投与による慢性膵炎モデルではRegI遺伝子欠損マウスはコントロールマウスと比較して体重の増加が悪いことから、RegI遺伝子欠損マウスでは膵炎に対する抵抗性が低下しており、膵炎のモデル動物としても利用しうる可能性が考えられた。5.Regは3つのタイプ(typeI,II,III)のメンバーからなる遺伝子ファミリー(Reg遺伝子ファミリー)を構成し、ファミリーの全ての遺伝子が同一染色体の極めて近傍に位置していることを新たに見出した。6.RegI遺伝子欠損マウスの膵組織でのReg遺伝子ファミリーの他の遺伝子(Reg II,Reg IIIα,Reg IIIβ,RegIIIγ)の発現をノーザン法により明らかにしたところ、RegI遺伝子欠損マウスではIIIα,Reg IIIγ遺伝子の発現が増加することが認められた。従ってRegI遺伝子の欠損をファミリーの他の遺伝子が代償している可能性が考えられたので、現在、既知のReg遺伝子ファミリーすべてを欠損したマウスを作製すべくベクターを調整中である。Reg遺伝子ファミリーすべてを欠損したマウスにより膵疾患・糖尿病モデルが開発され、本研究がさらに発展することが期待される。
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