研究概要 |
現代科学技術文明は,一方で,私たちの生活環境を快適ならしめると同時に,他方で,人間をなんたる物質的現象として捉える機械論的な科学主義を生んで,人間の人格性を軽視する風潮を招来し,現代の危機を生み出している。こうした現状においては,私たちは,改めて,あるべき人間像をその根本から考え直さねばならない。そのために大事なのは,カントからハイデッガーに到るまでの近現代のドイツ哲学のうちに豊に息づいている人間観をもう一度見直し,現代にその活力を蘇えさせることである。 本研究は,三年間にわたって,近現代のドイツ哲学のなかから,三つの局面を取り出し,順次その人間観の意義を解明することを試みた。第一は,カントとドイツ観念論の人間観,第二は,生の哲学の人間観もしくは生命科学との対決における人間観,第三には,実存哲学の人間観の研究である。 第一の研究課題については,カントの永遠平和論,ヒィセテの1804年の愛と生命の思想などの意義を明らかにした。第二の研究課題については,ドイツの生の哲学をも摂取しつつ,とりわけ現代の脳科学との対決においては,「こころ」や「いのち」の在処を「主体的自己」のうちに見出すべきことを明らかにした。第三の研究課題については,ヤスパースやハイデッカーの思索を究明し,あわせて「死」「愛」「自己と他者」「幸福」「生き甲斐」に関する「人生の哲学」を展開した。
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