本研究の主たる目的は、石川三四郎とエドワード・カ-ペンターの比較思想史的な追究を通して、近代文明批判の日本近代思想史への影響と、その独自な位置の検証を試みることであった。この両者の思想的接点は、近代文明が人間の物欲を無限に拡大させ、自然を破壊し尽くすに至るという視点をいち早く指摘し、「自然と共に生きる」変革理論を提唱したところにある。 本研究実績では、第一に主に国立国会図書館およびイギリスのシェフィールド市立図書館にあるカ-ペンターコレクションに収められているエドワード・カ-ペンターの第一次資料を複写資料として入手し、彼の思想形成を跡付けるとともに、19世紀イギリスの社会史の中での位置づけを試みた。特に、カ-ペンターによる「産業の村」構想におけるオ-エニズムの影響、ニューハ-モニ-運動の発展的継承に伴う問題を検討した。 第二は、石川がカ-ペンターの示唆を受けて、「デモクラシー」の訳語に「土民生活」を充てたことの意味を問い直す作業の一つとして、石川による近代物質文明への根源的な問いかけによる「負」の問題を検討した。また、その思想的基盤および異文化受容の受け皿となる日本思想史における地下水脈ともいうべき思想をほりおこすことにより、土着的思想の変容過程をさぐる手がかりとした。 これらの問題をめぐる論稿を『協同思想の形成過程-異文化受容の一断面』という表題のもとに、著作としてまとめ、現在刊行準備中である。また、その一部を比較文化学会において、発表予定である。
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