研究概要 |
平成8年度においては,予備調査として,ハイパーゲーム分析の心理学的場面での実用化の可能性を確認した。予備調査で取り上げた交渉場面は,裁判資料に基づくいじめ問題の状況である。いじめ問題では,いじめがもたらした傷害事件の判例を,子供,親,教師,警察というそれぞれの立場のプレイヤーによるハイパーゲームと定義し,コンフリクト解析をおこなった。 平成9年度では,実際の具体的な対人交渉場面として,披験者にピアノの販売者と購入者との役割を想定させ,動的に変化するハイパーゲーム構造という視点から交渉過程の詳細プロトコル分析をおこなった。結果として,行列型分析が利用できないことが判明したが,展開集約型の分析法を利用することによって,ハイパーゲーム分析手法が心理学的コンフリクト解析に有効であることが示された。特に,誤解がもたらす劣均衡解へのプロセスなどは重要な知見である。一方,詳細分析から得られた問題点としては,(1)交渉の終了時点の両プレーヤーが知覚するゲームからは交渉の結果に影響する主要な要因が推定できないこと,また,(2)これらの主要な要因は,交渉開始時点から交渉の過程で変化した誤解に基づくものであるということである。このため,今後の課題として,コンフリクト状況の分析には,ハイパーゲーム構造の変化をモデル化することが必要であり,ある一時点での状態をモデル化するだけでは不十分であることが指摘された。交渉のような交互に戦略を行使するようなコンフリクト状況では,コンフリクト状況の初期状態から発生事象を予測すること,推測される発生事象よりも好ましい発生事象を生起させるための条件を発見すること等の分析に,変化するハイパーゲーム構造を動的にモデル化することが必要と思われる。
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