研究概要 |
本研究は,音楽情報に関する潜在記憶の特性について明らかにしようとするものであった。そのために,次のような研究を行った。一つは一般的な潜在記憶特性に関する研究であり,一つの音楽情報に関する潜在記憶特性である。具体的には,先行提示された刺激が反復して提示されると処理が促進されるという反復プライミングと呼ばれる現象を手がかりとした。 まず一般的な潜在記憶特性について視覚刺激を用いて検討した。その結果,概念的情報に抽象化された形で情報が保持されているとされる顕在記憶に対して,潜在記憶は一般に知覚情報を保持しているとされるが,厳密な知覚情報そのものではなく,ある程度の変換を施された情報であることが明らかになった。 一方,音楽情報に関しては,和音情報とメロディー情報について検討した。和音情報については長調短調判断課題を潜在記憶課題として用いた。同一和音が反復して提示された場合その長調短調判断は正確になったが,音色という知覚情報の影響は小さかった。このことは,反復プライミングの基礎となっている潜在記憶には音色のような知覚情報は影響していないことを示している。しかし,顕在記憶を反映する再認成績はチャンスレベルであり,この反復プライミングは顕在記憶の影響は受けていないと考えられた。また,メロディ情報に関しては,メロディを構成する音の中に逸脱音が含まれているかどうかの判断を潜在記憶課題として用いた。その結果,調性のあるメロディでは反復プライミングが見られたが,調性のないメロディでは見られなかった。このことは,メロディの潜在記憶が,メロディスキーマを反映していることを示している。 本研究によって,(1)音楽情報について反復プライミングが見られ,潜在記憶が保持されていること,(2)そこで保持されている情報は刺激の知覚情報の忠実なコピーではないことが見出された。
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