研究概要 |
従来の研究において,ラットでは,幼若時の片眼摘出により視覚入力の一部を遮断すると,残存眼からそれと同側の視覚中枢に投射する非交叉性情報系(UXVP)に,補償作用としての再編成が出現し,その系の機能が増大することを,弁別学習を指標とした行動的側面,及び残存眼の視神経刺激により視覚17野から記録されるField Potentialを指標とした電気生理学的側面から明らかにした. そこで本研究では,こうした機能的増大の様態を,縞視力を指標として行動的側面からさらに詳細に分析するとともに,その可塑的神経機構を,c-fos挽疫組織化学により形態的側面から解析し,以下の研究成果を得た. 1. 縦縞-横縞弁別学習事態において測定したUXVPの縞視力は,OEB(幼若時片眼摘出群):0.73c/d,OET(成長後片眼摘出群):0.44c/dであり,OEBのUXVPに誘起される機能的増大が縞視力に反映される. 2. 残存眼と同側の上丘(特にsuperficial gray layer)では,パターン刺激の提示により,OEBにおいてほぼその全領域に,Fos-like immunoreactive(FLI)ニューロンが検出されるのに対して,OETでは限局した領域のみにしか認められず,両者の間に顕著な形態的差異が認められる. 3. 脳梁線維を切断したOEBの残存眼と同側の視覚野では,パターン刺激の提示により,17野を中心として,それを越える広範な領域に,FLIニューロンが検出されるのに対して,同様の処置を施したOETでは,17野の限局した領域に僅かなFLIニューロンが検出されるにとどまる. 以上のような形で,幼若時に片眼を摘出したラットのUXVPに誘起される機能的増大の様態を行動的側面から,またその可塑的神経機構を形態的側面から明らかにした.
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