研究概要 |
言語処理系における注意機能の問題を,特に単語および顔刺激に絞り,注意対象外の入力項目がどのレベルまで意味処理されるのか,事象関連脳電位(ERP)と行動測度を指標として検討した. 聴覚刺激を用いた研究 1.言語機能に関わるERP成分としてN400が広く知られているが,その単語直後反復に伴う減衰を利用して,非注意入力が後続する単語処理に与える影響を調べた.N400減衰は注意耳側の単語反復に限って生じ,注意対象外の単語は後続する単語処理に影響せず,意識的な制御処理に利用される形式でエピソード記憶に残らないことが示唆された. 2.意味プライミング効果を利用した研究では,選択的聴取課題遂行時の注意集中をN400成分の振舞で確認したうえで,その後に施行した再認成績を調べた.そのフォルスアラーム率をみると,選択聴取時に意味関連語が注意の対象となっていた場合には,注意対象外に比べて有意に高い値を示した.本知見から,意味記憶表象へのアクセス段階ですでに注意が作用することが示唆された. 視覚刺激を用いた研究 3.種々の顔写真をTVスクリーンに呈示して課題で情報選択を操作したところ,顔の男女弁別でN190・P240・N320が出現し,続いて男女+職業弁別条件にのみN410が発達し,親近性の影響も受けた.このN410の振舞から「個人情報」検索以前の情報選択が示唆された. 4.顔の明瞭度を徐々に下げる条件(下行系列)と明瞭度を上げていく条件(上行)でERPを記録し,頭蓋頂P170が顔の造作という物理的な特徴のみならず,顔と認識する主観的な「見え」でも影響を受けることが示唆された.今後,記録部位や後続する成分との関連について検討する必要があるが,顔認識における注意と言語処理系の関連を分析するうえで有用なパラダイムを得た.
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