研究概要 |
ダウン症者においては,10歳代半ば頃から早期老化の兆候が見られるという報告に加えて,日常生活の動作・行動の基礎となる青年期までに発達する基礎的運動機能が,同年齢の健常児やダウン症児以外の知的障害児と比較して劣っていることが指摘されながら,青年期以後における運動機能の実態については殆ど明らかになっていない。 そこで,本研究では,養護学校高等部から50歳代までのダウン症者を対象にして,加齢に伴う運動機能の実態と脳幹部の機能的変化を年代別に明らかにし,また,ダウン症者以外の知的障害者の結果と比較することを通して,その特性を検討しようとするものである。 方法 対象者と測定場所:養護学校(高等部),知的障害者更生施設,通所施設,教護施設などに在籍し,承諾が得られたダウン症者58名および知的障害者48名の計106名である。測定場所は,学校や施設にある体育館,プレイルーム,または保健室等で行われた。検査:運動機能の検査項目として,握力,背筋力,タッピング,パチンコ玉つまみ,全身反応運動,片足立ち(開眼)を実施した。また,右側面の立位姿勢も記録した。聴性脳幹反応では,刺激音としてクリック音(70dBnHL)を使用し,ヘッドホーンにより両耳呈示した。全対象者に対して1000回加算平均の測定を2試行以上行い,波形の再現性を確認した。 結果 1)ダウン症者群における身長と体重は,知的障害者群と比較して,身長は各年代で著しく劣っていたが,体重では,やや劣っている程度であった。2)運動項目の測定結果では,ダウン症者群は,全ての項目において,知的障害者群の結果より低く,30歳代,40-50歳代でその差が大きくなる傾向が見られた。3)立位姿勢は,ダウン症者では,10歳代から,首が前に出て,前かがみで,膝の曲がっている状態が多く,知的障害者とは異なる様子がうかがわれた。4)聴性脳幹反応については,ダウン症者群では,III波とV波の頂点潜時とI-V波頂点間潜時が加齢に従って有意に延長した。一方,知的障害者群では,いずれの指標においても加齢と有意な相関を認めなかった。5)ダウン症者群は,知的障害者群に比べて,10歳代ではV波潜時は短いが,加齢に従って逆転し,40-50歳代では延長する傾向が認められた。
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