研究概要 |
1.実証的検討として,96年3月の先行調査を含め,96年7月,10月,97年3月,10月,98年2月の6回にわたる縦断的質問紙調査を同一対象に実施した結果,第5回調査までに次のような知見を得た。(1)PTSD傾向を示す者の割合は,第2回から第5回までに順に,小学校中学年生で22.9%,17.0%,10.8%,9.7%,高学年生で10.7%,6.4%,4.4%,6.6%,中学生で8.8%,8.6%,4.8%,3.8%となり,年齢が低いほどPTSD傾向を高いこと,時間的経過とともに減少することが明らかになった。各回とも,PTSDの特徴の中で,再体験と生理的過緊張の程度が高かった。また,住宅の被害状況との関連では,半壊の者のPTSD傾向が高く,大人の場合とは異なる結果が示された。(2)震災ストレスを軽減させるソーシャルサポートして,父親や母親のサポートが重要であることが明らかになった。しかしながら,被災直後の心理的混乱にある親自身がどのように子どもたちに関わっていくかが今後の課題として残された。2.臨床的検討しては,電話相談を受け付けるとともに,上述の質問紙調査の保護者用において相談依頼や困っていることの記述を付加した。電話相談については,被災地域に多くの相談機関があったため,2年間で10数件にとどまったが,ほとんどが保護者自身の不安が主訴であった。また,記述の分析においては,小学校低学年で恐怖反応や親への分離不安,小学校高学年生や中学生でその年齢特有の反抗的態度や精神的不安定を,震災の影響と関連づけたものが多かった。3.両検討からは,震災の影響は時間的経過とともに軽減しているが,今なおPTSD傾向を示す児童・生徒が存在し,保護者自身の不安が残っており,より個別的なケアが必要であることが示唆された。
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