社会的ステレオタイプの形成過程について実験研究を行い、以下の諸点を明らかにした。 (1)ステレオタイプ的判断の基礎を成すと考えられる、「社会的分布」の認知について調べた。まず、集団変動性に関する複数のモデルを比較検討するための実験を実施した。次に、自己の態度に対する内集団成員からの支持(コンセンサス)を過度に見積もる「内集団投影効果」の規定要因を明らかにした。 (2)集団成員の行動に関する原因推論の過程が、ステレオタイプ的判断の維持に寄与することを明らかにするための研究を行った。性別ステレオタイプに一致する行為・一致しない行為に対して、「男だから」「女だから」といったカテゴリー型原因帰属が生じやすくなる状況を明らかにした。 (3)自己の所属する集団を他者からステレオタイプ的に扱われた際に生ずる反応について調べた。在住地域に関するステレオタイプを織り込んだ広告に対する評価を通じて、内集団に「正の社会的アイデンティティ」を付与するような内容であれば、ステレオタイプ的描写がかえって高く評価されるが、「負の社会的アンデンティティ」を喚起する広告はマイナス評価を受けることを見出した。 (4)ステレオタイプを共変関係の認知として概念化し、これをもとにステレオタイプ低減の方策を提唱した。このモデルに基づいた実験を行い、知覚者を合理的判断に導く状況を明らかにした。ステレオタイプはもとより、集団間の偏見や葛藤の解消にも応用の可能性を持つ実験結果が得られた。
|