研究概要 |
小学校5年生から6年生にかけての算数の授業において,児童が自主的に学習を選択して個別的な学習コースを形成する授業を実施し,その効果を検討した。実験群には,複数の学習の中に「メタ認知的学習」を用意し,それを選択して学習することだけでなく,複数の学習から自主的に選択する教育環境自体が,メタ認知的学習ストラテジーを育成することを意図した。主な結果は次のとおりである。 1.適正として,学力,メタ認知および学習スタイルを組み込んで,重回帰分析を行ったところ,適性の主効果としては,多くの場合で学力の主効果が得られ,学習指導法の主効果としては,全体としては期待していた「学習コース形成」の学習指導の効果は得られず,従属変数が「知識・理解」課題の場合は,むしろ「指導書準拠」の方が,確実に児童に学力をつけるものであった。メタ認知的課題でも期待したほどの効果は得られなかったが,「知識・理解」の場合のようなネガテイヴな結果ではなかった。適性処遇交互作用としては,一部で学力と処遇,あるいは学習スタイルと処遇との交互作用が得られ,「学習コース形成」が学力を利用するものであり,また熟慮的な学習スタイルの児童ほど通常の学習指導法が効果をもたらしていた。 2.「学習コース形成」群における児童の学習選択の実態から,学習選択の環境の効果を検討した。自由な選択が保障される教育環境の重要性の一端が示されたが,「メタ認知的学習」の選択回数と適性との間には明確な関連は見られず,児童はメタ認知的学習を選択しても,その動機づけを高める支えがないと,いわゆる「算数らしさ」をもつ学習選択に戻ってしまう傾向がある。 3.学習選択の可能な環境では,児童が自分に適合する学習を選択できる力を高めることの重要性が明らかになった。「メタ認知的ストラテジー」を,学習ストラテジー全体の中に位置づけ,それらの体系的な指導を行っていくことが,真の学力を育成することにつながることが示唆される。
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