この調査研究では、地域住民の福祉ニーズの、地域社会・環境条件や個々の家族の条件による違いを検討し、過疎農村における高齢者の在宅福祉の充実の要件を考察した。 統計的調査の集計結果から得られた知見として、(1)過疎農村の住民は福祉の充実よりは経済の活性化=就業機会の確保を望んでおり、(2)高齢者については家族主体の介護を補完する形での福祉の充実を期待している、(3)定住志向と地域福祉への期待は関連がない、ことが明かとなった。 ひとり暮し老人にとって本当に必要なのは周囲の人々との交流であり、事例調査から次のようなことが示唆された。(1)農村地区においても高齢者層の交流機会が少なくなっており、通院バス・病院待合室での語らいが「楽しみ」となっている、(2)介護その他の福祉事業の対象にならない高齢者層にも福祉的な観点からの事業が重要になっている、(3)そのような事業には地域住民のボランタリーな活動ではカバーできない問題があるが、少ない予算でかなり効果的な事業展開の可能性がある。(3)農村集落における「見守り活動」は「地域社会」としての機能が弱体化するにつれて必要度が高まるもので、連帯性が強ければ制度化される必要がない。 以上のような点でも、地域によって福祉のあり方というのは違ってくるのであり、福祉をめぐる地域的な条件(ニーズや福祉資源も含む)の違いを重視しなければならない。
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