本研究で得られた知見は以下のとおりである。 1. 社会科学領域の専門的な分化、制度化は、法学領域が先陣を切り、量的な多さも示すが固定的傾向を持つこと、それに対して経済学領域においてはその変化が非常に激しく科学論的議論も多いこと、また、社会学領域は分化、制度化は緩慢であるが、現実との関わりの中での実践的な問題関心を背景とした科学方法論的な議論が頻発している、といった比較研究の可能性がみえてきたことである。 2. 明治後期から大正期、昭和初期にかけて次第に顕著になる社会学領域での科学理論的な展開は、単に学問論としての自然科学主義から社会科学主義への展開ではなく、現実との対峙に向かったことによる展開であり、それは「社会学の現実化」に伴う事態であったととらえられる。 3. しかし他方では、西欧輸入のアカデミズム学問(講壇科学)の延長上で翻訳解釈を媒介として改造された社会学も存在しつづけてもいたのであり、それは「社会学の現実化」にたいして「現実の社会学化」と呼ぶことができる。 4. 前者を新型社会学、後者を旧型社会学と類型化することによって、日本における近代化過程での社会学の科学的学問的葛藤をとらえる視点を形成できると考えられる。 5. 今後の課題はさらに、法学、経済学、政治学といった他の社会科学との関連、比較検討をすすめることにある。
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