平成8年度科学研究費補助金による研究の実績は、1997年世界思想社から出版する『同窓会の社会学』にまとめてある。ここでは、同窓会がいかに個々人の有する文化的資本や社会的資本からなる象徴的資本を集中化・独占化して、その資本を運用しているかを検討するところに焦点を当てている。そして、歴史と伝統の長い福岡県の県立修猷館高等学校を対象として事例研究を行なった。具体的には、第一に、200年の歴史を誇る修猷館高等学校で生徒と教師は学校文化を伝統から新しものに創り出し、自らの身体に体得するダイナミズムを分析した。そして、その学校文化は文化的資本として同窓生に共有される。第二に、個々人は学校を卒業してから、彼らが学校生活を通して体得した文化によって、自然と同窓生達の間で社会的ネットワークを形成する。個々人は同学年だけでなく、先輩・後輩までネットワークを広げ、社会的資本を豊かに蓄積していく。しかも、彼らは同学校卒業者だけでなく、他校の卒業生とのネットワーク間の交流を通して、象徴的資本を蓄積しその資本を運用する。特に、彼らは政治的な部分では選挙にその象徴的資本を独占、運用することによって有利な位置をしめる。さらに、彼らはゴルプなどの遊び、先輩・後輩の転職、就職、娘・息子の結婚にもそのネットワークの象徴的資本を活用する。第三に、同窓会の象徴的資本は母校に対して意図的・無意図的な権力に転じる。その象徴的権力は学校の文化を再生産することに機能する。しかしながら、学校の経営は学校自治にまかされるので、同窓会の象徴的権力は学校の自己統制力との関数によって学校に作用する。すなわち、1.学校の自己統制力の相乗効果による権力の強化・受容、2.自己統制力との闘争による権力の部分的受容、3.自己統制力との分離による権力の形骸化が行われる。
|