研究概要 |
1. 船底材に剥りの技法で造作した材を使用して建造する手漕ぎ船が,太平洋東部沿岸の岩手県田老町から北上し,津軽海峡に面する漁村を経由して,能代市周辺まで,広く分布していることを確認した。 この材を,上記の地域では共通して「ムダマ」と呼び,この材を使用して船を建造することを「ムダマハギ」と呼び,このようにして造られた船のことを「ムダマヅクリの船」と呼ぶ。 2. 「ムダマ造りの船」には,その「ムダマ」の造作の仕方,使用方法によって,幾つかの特色ある船型に分類することが可能である。それは,また,地域差を示す指標としての役割を持たせることが可能である。 3. 「ムダマ造りの船」の推進具は櫓ではなく「クルマガイ」であることでも特徴づけられる。「ムダマ造りの船」と「クルマガイ」の組み合わせの分布地域は,単純に表現すると,イタバギの船」と「櫓」の組み合わせの分布地域とは,明確に区別される。少なくとも前者は明確に一つの文化圏を形作るといってよい。 4. 各船型の建造技法は,その地域の船大工の徒弟制度を通して継承された。各船型ごとに,船の基準寸法を与える部位も異なり,また建造技法も微妙に異なる。それらは長年月にわたり,徒弟制度によって受け継がれ,保持されてきていた。このメカニズムが各地に特色ある船型を継承してきた基本的な要因なのである。
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