保健婦の制度化と保健婦活動における専門性及び専門職性professionalityの内実を、歴史的パースペクティヴの下で考察するために、保健婦の制度化が行われる昭和10年代に始まる愛育村・愛育班とそれへの保健婦の関与と活動に焦点をあてた事例調査を行った。その結果、次のようなことが明らかになった。 1.戦前に保健分野における適正技術の担い手・伝達者・創造者として保健婦が住民と一体となって行った活動はプライマリ・ヘルスケアの先駆をなすものであり、戦後の保助看法による保健婦の制度化にも影響を与えたものと考えられる。 2.戦後、とくに高度成長期以降は、保健分野における適正技術の担い手・伝達者・創造者としての役割を継承しつつ、当事者としての住民の問題解決を援助する保健婦活動が展開され、保健婦の独自な専門性及び専門職性の形成が見られた。 3.保健婦は、これまでその制度化に際しては専門職性が軽視されてきたと考えられ、また、専門職のモデルとされてきた臨床医とは対照的な位置におかれてきたことにより、その専門職性が未形成であることを指摘されてきたが、保健分野における適正技術の担い手・伝達者・創造者として、日常生活場面における当事者による自立的な問題解決の援助者としての専門職性を独自に成熟させる可能性のあることが明らかになった。 4.こうした独自な性格を有する専門職性の形成は、従来の専門職モデルに対して、それとは対照的なオルタナティヴ・モデルとしての意義を有することになると考えられる。
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