研究概要 |
本研究の目的は,19世紀日本の農民運動に関して,従来通説といわれてきた諸理論の妥当性をシステマティックに検証すること,さらにこの作業を通して当該農民運動ひいては変革期における社会運動のメカニズムを探ることであった。研究は,データ収集からデータ整理・分析とほぼ研究実施計画にそって進められ,当初の研究目的を達成することができた。本研究によって得られた主要な知見は以下のとおりである。 1,日本の農民運動研究の伝統的枠組である階級闘争論的な理解は,実際に起こった農民運動に適合的なものではない。さらに,現在の社会運動理論で注目されている政治過程モデルを下敷きにした政治的機会構造論も適合的ではない。 2,19世紀日本の農民運動ひいては変革期における社会運動は,運動主体の歴史的政治社会構造上の位置と運動主体のもつイデオロギーを考慮に入れた「構造システムアプローチ」によって,より整合的に理解できる。 3,総じて,変革期における社会運動は,新たなる権利主張型のものではなく,むしろ旧来の政治社会のなかで人々が持っていた既存権利保守型のものとして起こることが多い。 これらの知見は,従来の憶測的な議論とは異なり,データを通して一般化された結論として主張することができるという点も強調しておきたい。また,以上の主要な知見に加えて,19世紀日本の農民運動に関するデータの精緻化,特に時系列データの精緻化とその分析に大きな進展が得られたことも本研究の重要な成果として併記しておきたい。これらのデータは,研究蓄積として新たなる視点からの再分析がいくらでも可能である。将来的には,地方レベルのデータを更に充実させることを企図してゆきたい。
|