本研究のねらいは、地域の政治権力構造の自己組織化要因と過程をネットワーク分析、特に、認知ネットワーク分析の適用と、聞き取り調査等から得られたデータによって描き出すことであった。特に社会空間認知が政治過程や意思決定への影響の探索が大きな目標であった。この研究の対象として山梨県中巨摩郡増穂町の、特にゴルフ場阻止のための社会運動を中心とした政治権力構造とその政治過程に焦点を当てることとし、政治的企業家同士の認知社会ネットワークデータの収集を主目的とした質問紙調査ならびに政治過程に関する聞き取り調査を行った。本研究から明らかになったことは、この地域の濃密な社会関係認知がデータ的にも裏付けられたこと、それにもかかわらず、共同主観的に構成された社会関係認知が、当事者同士の関係認知と齟齬が大きいことが分かった。そして、回答者の回答量をコントロールすると、回答者による社会関係認知に関する回答の共通に認知される社会関係との一致度よりも、回答者の回答の当事者同士が申告した関係との一致度のほうがネットワーク中心度の高さと相関があることが分かった。これは皆が認知している関係を知っていることよりも、皆が知らず当事者同士が知っている関係をよく知っていることが社会的に有利な立場に立つ傾向にあることを示唆する。いうならば第3者によって共同主観的に構成される社会関係は顕在的な社会関係であり、それを知っていることは必ずしも情報価値が高いことではないのに対し潜在的な関係を知っていることのほうがより高いといえる。また、ゴルフ場反対運動は顕在的コミュニケーションの局面では極めて困難な政治過程を強いられた。それを結果的に反対運動の成功に導いたのは潜在的なコミュニケーションチャンネルを有効化する戦略を取りえたためであることが明らかになったが、ネットワーク的にもゴルフ場反対への指示は意外な広がりを持つとともに、反対運動の中枢を担っていた活動家の中にネットワーク認知能力の高い者がおり、それがこのような潜在的チャンネルの活性化の要因の一つであったことが伺えた。
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