研究概要 |
本研究の結果は相互に関連した次の3つの論文に集約される。第1は須田勝彦「明治初期算術教科書の自然数指導」である。この論文では序章において本研究全体の目的にふれながら,2章以下では明治初期における初等数学教科書(主に塚本明毅,永峰秀樹,中条澄清など)における自然数指導に限定して,教育の目的論,教育内容・教材構成論を検討した。そこでは数学教育が諸科学との関連のもとで構想されていたこと,最初に可能な限り一般的な数範囲を提示しようとしたこと,アルゴリズム形成への周到な配慮がなされていたこと,理論的・法則的認識が重視されていたことなど,今日の数学教育が立ち帰って検討すべき価値のある試みが析出された。 第2は大野栄三「明治期物理教科書における力概念の取り扱い」である。力学教育では,昔も今も,基本概念である「力」そのものが何であるのかという疑問に答えることよりも,「力」が作用した結果どうなるかを教育することに重点が置かれてきた。本論文では,このような力学教育における重心の偏りを改善するため,明治期物理教科書に見られる「力」の実在論的取り扱いを現代物理学の視点から捉え直すことについて論じた。 第3は大竹政美「師範学校編『小學読本』における科学教材の分析の試み-『科学に関する識字能力』の観点から」である。これは,その形成が現在もなお「理科と国語の接合点」で問題となっている,科学研究の成果を書いた文章を理解する能力=科学に関する識字能力(リテラシー)の形成について,『小學読本』の究理学的教材に焦点をあてて検討したものである。科学に関する識字能力は記述的な「報告」と,「説明」という二つの「ジャンル」(テクスト組織の全体的パターン)に限定した。
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