研究概要 |
メカニックス・インスティチュート(以下MIと略す)では,1830年頃より50年頃にかけて,経営改革をめざした種々の試みがみられた。そのような経営改革の一つとして開かれ親睦的催事の内容と意義について考察し,以下の諸点を明らかにした。 (1) MIにおける親睦的催事としては,博覧会,エクスカーション,懇親会,音楽会茶会・クリスマスパーティなどがあり,これらは会員の増大と収入増を期して企画された。 (2) 親睦的催事は,MI自身にとり教育経営の革新策としての意義だけでなく,向上心と自己改善の意欲をもった成人の学習活動と余暇活動を充実する活動として意義がある。 (3) 個別事例としてとりあげたマンチェスターMIにおいては,なかでも博覧会事業が大いに注目され,5回も開かれた。勤労者階級にとり実物を観覧できる啓蒙効果が期待できたし,また抜群の財政的効果をあげたからでる。 (4) 同MIにおける親睦的事業の先導者であった,同MIの会長ベンジャミン・ヘーウッドの指導理念には大きな変化がみられる。当初は,科学がもたらした驚異的な成果,科学学習の重要性を力説してMIを指導していたが,1830年代にはいると,親睦事業を開催することの方を重視し推奨した。「気晴らしや娯楽」を「知識の伝授」に結びつけることの必要性を説いたのである。その理由は,同事業は多くの人を参集させて大きな財政的効果が期待できたからでり,同時にまた,同事業では,同一のタイム・テーブルに従って行動するうちに,人々は一日に何度も同じ顔に遭遇し親密さを増すことになることから,社会の一体性,均質性を育むという社会的意義が認められるからであった。 (5) それゆえ,MIにおける親睦事業は,公園整備や公共図書館の充実とともに,英国民衆の余暇娯楽形成史,社会統制の歴史のなかに位置づけて,具体的に分析する必要がある。
|