研究概要 |
平成8年度の研究実施計画に記したように,研究計画を1期と2期に分け,第1期では州議会議事録(Minutes of the Executive Committee.1835〜1855,the Board of Trustees.1855〜1866,及び the Board of Visitors of the N.Y.Legislature等の資料の収集と共に,資料の解読に多くの時間を割いた。膨大な量の活字の中に顕在化し,あるいは潜在化する両州議員の教育観の汲み取りは可成りの隘路があるが,平成5年度科研費補助による19世紀教育メディア分析の成果に多く助けられて,目下,なお進捗中である。 第2期は第1期に続く作業と平行して,一部の資料の整理分類・翻訳を大学院生の労に求める一方,両州議会議事録の分析に比較法を援用している。現在,予備的考察(関連諸要因の確認)の段階にあるので,これまでの作業で明らかになった教員養成カリキュラムの教養主義と専門主義にかかわる両州議会の政策形成過程の特質を摘記することにする。但し,この段階で導出された仮説の検証は,次段階である比較(予測)を経過せねばならないので,仮説的結論といってよい。(1)N.Y.とMass.は歴史的にみても地方制度が異っていたこと。即ちMass.では植民地時代以来,TownのFreeman(有権者)がTown meetingを開き,Townに関する事項を決定した伝統的慣例が根強いこと。このTownship制度が「自治の最良の学校」とされ,Freemenに求められたのはcommon sense(良識)であった。よき教師とはcommon senseのある教師という民意があり,この民意が州立師範学校カリキュラムの教養主義(liberalism)重視に現れたと思われること。(2)N.Y.はTownより面積の大きいcountyが伝統的に地方制度の中心となってきたので,一般にMass.ほどには地方的自治の色彩は強くなかった。この中央集権的傾向が,ヨーロッパ諸国の新しい教育制度導入を容易にする地盤を形成していたこと。師範学校における専門主義(professionalism)重視の傾向は,Countyという広域行政にその一因が求められる仮説を導出させている。 以上はあくまでも仮説的結論であって,今後,両州資料の比較検証をより綿密に行うことによって,教員養成カリキュラムにみられる教養主義と専門主義の形成について,民意の議会システムへの収斂・拡散という視点から,民意の政策過程への定着,いわゆる政策決定の具体相をより剔抉したいと考えている。なおこれらの成果は近年中に是非とも公刊したいと念願している。
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