研究概要 |
今回の研究課題は,時代的には明末清初期の研究であるが,この時代は何分うち続く戦乱によって政情が不安定をきわめていて,それが原因して基本史料類は皆無に近い状態である。そのようなことから,この分野の研究はいまだに未開拓のままで終っている。そのため,空白の部分を解明すべく関係史料の調査発掘を最後の最後までひたすらつとめてきたのであった。その結果,つぎの三史料を発掘することができた。第一点は鹿児島市の木脇家に伝存する「肥後守祐昌様琉球御渡海日記」という古記録である。この史料は明末期のもので,その内容は政治,経済,文化の万般にわたって記されていて,そのときの薩流関係を通じて明清国の動静を知ることの出来るきわめて貴重な資料となっている。つぎの二点は研究課題とは直接結びつくものではないが,関係史料として今後大いに活用されるところの琉球国使節の江戸三附参府時の記録すなわち「琉球人参府記」(嘉永三年庚戌年)である。本史料は旧小倉藩藩主の小笠原家文庫(福岡県行橋市)に所蔵されているもので,従来まったくしられていなかった新発見の史料である。研究課題に基づく関係史料を追い求めていた最中に偶然見つけ出した貴重な新史料であった。最後の一点は,琉球の朝貢貿易時の最重要輸出品の一つである昆布史料の発掘である。昆布はそもそも北海の海産物の一つで,江戸時代の北前船が北海道から日本海を南下して運んでいたが,薩摩の海商らは北陸地方(富山)までやってきて,そこで昆布を買い求め,そして,南の琉球に運送していたのであった。富山市の隠田家に所蔵されている隠田家文書中からこの「昆布の道」を解明し得たことは,さらに今後の進貢貿易研究に寄与するところ大であるといえよう。以上の三史料は今回の成果として明記しておきたい。
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