研究課題/領域番号 |
08610367
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
東洋史
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 進 名古屋大学, 文学部, 助教授 (40168448)
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研究期間 (年度) |
1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1996年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 明末清初 / 出版文化受容層 / 俗書 / 挙業書 / 非正統的言辞 / 諸子 / 学術史 |
研究概要 |
本研究の基礎をなすのは、明清刊本の書誌調査とそれを通じての史料蒐集であるが、これについては明版挙業書を中心に、二百数十点にのぼる明版書と約三十点の清初刊本、あわせて三百点近くの調査を果しえた。これによって得られた成果の第一は、万暦中年くらいから部分的にせよ口語による受験のための経書注解が始まり、遅くとも天啓年間になれば、全面的に口語を用いた挙業書が出現している、という事実を発見したことである。口語を用いた挙業書というのは、本来であればほとんどありうべからざるものであり、そうしたものが有意的に出現したことは、この時期になって出版文化受容層が飛躍的に拡大し、また著しく俗化したことを端的に表現していよう。新たに登場してきたこれらの読者たちは、明らかに旧来の士大夫とは異質な存在であり、よってその価値観は正統と必ずしも一致しない。そうした非正統化、更には異端化をはっきりと表現するのは、やはりこの時期になって大量に出現しだす諸子の書、それも策や論のための挙業書として用いられた粗悪な選本である。例えば異端の代表たる墨子につき、それらの挙業書は往々肯定的な批評を加え、それがまた他の書に転載されて広まり、遂には諸子解放の風気を形成するし、また秦始皇評価についてもほぼ同様のことが言えるのである。こうした非正統化、異端化は、これまで陽明学の展開からのみ説かれがちであったが、実のところそれは陽明学の理論的帰結というより、むしろ当時の風気を陽明学がもっとも直接に反映していた、と考える方が実情に近いであろう。こうした学術上の風気形成と俗書の関係につき、具体的な分析ができたことも本研究の成果である。なおこうした俗化、非正統化の動きを示す出版物は、清初に至ると急速に減少し、ほとんど消滅してしまうのであるが、この過程については一層の調査、研究が必要であろう。
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