研究概要 |
1. これまでに,ニヤ出土カロシュティー文書のうち,大英図書館所蔵分についてはそのすべてを,またデリー国立博物館所蔵分については4分の1ほどを,実際に現地で確認した。E.J.Rapson他によって1929年に発表されたKharosthi Inscriptionsとの対照を行ったが,読みの訂正だけでなく,木簡の形態その他についても新たな知見を得た。また,大英図書館所蔵分とデリー博物館に所蔵されるとされるものを合計してももとの全体数とは一致せず,所在不明のものがあることがわかった。所在状況の詳細については,研究成果報告書に示した。 2. 楔型木簡,矩形木簡,皮革文書などの形態をもつ行政文書・裁判文書・私信など,比較的長文を含む文書について,これの日本語訳をほぼ完了した。すでに発表されているT.Burrowの英訳、また林梅村の中国訳を参照したが、楔型木簡の定型文についてさえも両者の翻訳には訂正の必要があることがわかった。中期インド語研究の立場から,もう一度全文の再検討が必要である。この点については,研究成果報告書に述べた。 3. 既に作成した「ニヤ出土カロシュティー全文データベース」と,日本語訳を統合し,さらにこれに形態・文字形・現状などの各種のデータを書き込んだ総合的なデータベースを作成することを目指した。(アプリケーション・ソフトとしてAccessを使用。)データの量が膨大であるので,現在この作業は続行中である。 4. カロシュティー木簡の解読を通じて,2〜4世紀の中央アジアにおけるインド文化の影響の可能性を明らかにした。諸研究機関での中央アジア史関連の史料調査は,従来の研究成果を知る上で有効であった。この点については,研究成果報告書に述べた。
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