研究概要 |
宋・元版,五山版等の書誌的調査を都内の書陵部・内閣文庫・大東急記念文庫等に,継続して,行なった。とりわけ,宋・元版とその覆刻を予想させる五山版とを選び,刻工名・欠画・墨丁などの詳細を記録した。新たに,開元寺・東禅寺版一切経の補刻・覆刻の問題,近時,調査を進めつつある王公祀堂本(紹興壬年印)との比較から,逓修の詳細が判明してきた点は,重要である(簡単な図表は,報告書末尾に附載した)。それらの成果の上に立って,とくに,開元寺版一切経の補刻葉の「下州千葉寺〓行」の捨錢の文化的背景を追求した。その過程で,例えば『大蔵経網目指要録』(五山版)を例に考察し,開元寺版の覆刻であるが,金沢文庫蔵開元寺版同書とは,補刻葉を異にした底本であった可能性を指摘した。平成8年度より着手した重源の弟子の渡来僧空躰の活動のひとつ「疑経作成」(大日経など)に関する周辺領域への調査を試みた(空躰が自ら「宋芯蒭空躰」と署名した令写本の発見など)。又,建仁寺両足院の蔵書調査研究を引き続き行なってきたが(京都大学人文科学研究所)、従来,五山版と誤認されていた宋版二点を見出した。
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