この2年間の研究の内容は基本的に『一般音韻論の体系』と『一般音韻論極小化』においてまとめてある。一般音韻論の統合と簡潔化に関して私は極小主義的な立場から研究を続けてきた。その提案は次の3点にまとめることができる。第1は、自律分節音韻論的なSpread αという音韻操作の適用の方向性はそれが適用される際の適用領域に依存するということであり、第2は、音韻理論の構成の概念的な必然性は、そこで言及されている音韻素性が生理音声学的に、あるいは調音音声学的に如何に動機づけられているかということを精査することによって明らかになるということであり、第3は、軟音化・硬音化という伝統的な区別を更に押し進め、その中に格となるべき部分と周辺部としてみなされるべき部分とがあり、前者は言語普遍的であり、後者は個別言語的であるということである。Spread αの方向性に関しては音韻的語という概念に決定的に依拠する必要があるということを述べた。また、特にコーダ位置において弾音化、有声化、摩擦音化、声門音化、そして脱落という現象が自然言語の音声現象において認められることに着目し、それらをそれらの音韻過程の個別言語レベルでの具現をパラメータとして規定するべきことを主張した。これによって母音間において弾音化を選択する個別言語においては、そのような位置での摩擦音化や声門音化観察されない、という予測を提起した。
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