ポストモダニズムの時代といわれる現代において、世界はさまざまな変化を経験している。文学のあり方も当然ながらそうした変化と無関係であるはずはなくとりわけ多様なメディアが人間のあり方に与える影響の大きさに敏感に反応する作家が増えていることにそれが反映していると言える。なかでもメディアと生活、さらには世界観が密接な関係を持たざるを得ないようなアメリカの現代社会と真正面から取り組む作家の活躍は、注目すべきことと思われる。 60年代において、いち早くメデイアが人々の日常生活のあり方を左右し、それが世界の認識の方法に影響を与えるものであることを意識する小説The Crying of Lot 49を書いたトマス・ピンチョンは、90年に出版された最新作Vinelandにおいても、テレビ、映画をはじめとするさまざまな情報伝達のあり方が、人間関係(とくに家族関係を中心とする)にどのような影響を与えるか、そしてそれがアメリカ社会の現状とどのように関わっているかという問題を扱っている。また80年代に出版されたドン・デリロのWhite Noiseも、高度資本主義経済のもと、無限の自由と逸楽をほしいままにするかに見える消費・情報社会に付随する、個人の想像力、能力をはかるに超えた危険性の存在を描いている。 SFと紙一重の観さえある多様に情報化された現代社会を描こうとするこれらの作家たちは、それぞれ異なったやり方で、あらたな文学的表現を提示していることを確認した。
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