研究概要 |
申請時の計画通り次の順序で研究を進めた。1.平成8年度には(1)16-17世紀英国社会・家庭において女性がさまざまの抑圧に苦しんだ状況.伝統的女性観やジェンダーの問題を調査。(2)当時女性の文筆の領域が日記・自伝などの記録.書簡.宗教的翻訳などに限定されていた実態の研究。(3)博学な少数の宮廷女性が男性の宗教書を翻訳した例。(4)女性が書簡,記録類の中に文筆の才能を開花させた例。(5)当時のジェンダー観に忠実な「母の助言の書」の例。(6)当時盛んに出版された女性攻撃の書に反論した女性擁護論パンフレット。(7)宗教的主題から世俗的主題への移行期に女性によって書かれた恋愛詩や世俗詩の少数例。2.平成9年度には女性の文筆が記録・書簡から次第に創作へと向かうごく初期の例としてエリザベス・ケアリに注目。(1)女性による現存の最初の劇『マリアムの悲劇』,(2)同じく最初の歴史物語『エドワード二世の歴史』において,ケアリが女性ゆえの苦難の人生からこれらを生み出した経緯を研究。(3)従来女性未踏の三領域-散文ロマンス,牧歌劇,連作ソネット-に単独で挑んだ17世紀初頭のメアリ・ロウスの業績に目を向けた。ロウスの長大なロマンス『ユーレイニア』が,男性による先行作品『アーケイディア』などの伝統を踏まえつつ,それを乗り超えていく志向を示すことを研究。3.平成10年度には,(1)清教徒革命による社会の動乱期に.女性の文筆が私的領域から公的領域へと進出し,各宗派の女性信徒が議会への請願や,説教・予言のパンフレットを執筆して活躍した経緯。(2)17世紀中葉.王政復古後,多数の世俗的作品を産出した貴族女性マーガレット・キャヴェンディッシュの文筆活動が,18世紀以降の英国女性の文筆の先駆となった可能性を,特に彼女のユートピア物語を通して考察した。-以上の研究により,実録から創作へ,宗教性から世俗性への展開がルネッサンス期英国女性の文筆活動の特質であることが検証された。
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