研究概要 |
生物変化理論(evolution theory)の観点から,語彙拡散理論(lexical diffusion)を考察し,生物学的研究で用いられる方法を,言語変化研究に適用し,生物学的変化と言語変化の分析方法,過程,分析結果の類似性を明らかにした。本年度は次の二点について研究した。 1。ゲルマン系言語の新しい分類法。 最近の遺伝学では,統計的方法のブートストラップ法を用いて,人種混淆が起こった部分を部類分けすることに成功している。この方法をゲルマン系言語の分類に適用し,共通の祖語から発達した部分と,借入語を部類分けして新たな言語分類方法を提唱した。200の基礎語彙について,ブートストラップ法を用いて生成した100の樹状図を分類することにより,従来は西ゲルマン諸語に分類されている英語の占める位置が特に不安定であることが明らかになった。英語には200の基礎語彙中,フランス語からの借入語が13語,古ノルド語から14語あり,英語の位置が不安定なのは,これらの借入語によるものと考えられる。 2.言語伝播モデルの構築。 英語の音韻,形態,統語,意味変化を踏まえて,語から語への伝播と人から人へ,あるいは地点から地点への伝播の相対的速度に基づく言語伝播のモデルを提唱した。この二面的伝播のモデルは,変化は規則的に起るとしたneogrammarian達の変化理論と,それぞれの語にはそれぞれの歴史があるとした方言学者達の見解を統合したものである。 今後は更に,語彙拡散理論と脳の進化の関係を考察する予定である。以上の成果は,1996年8月26日から31日まで,ポーランドのポズナンで行われた9th International Conference on English Historical Linguisticsで″Evolution Theory and Lexical Diffusion″と題して,1時間の講演を行った。
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