研究概要 |
言語学者であり,哲学者である関口存男(1894-1958)は,「意味形態」という意味論上の概念を駆使することにより,例えば冠詞の用法など,それまでの文法理論では説明の難しかった多くの問題に画期的な解釈を加えた。これが可能であったのは,関口の「意味形態文法」が(『理解するための文法』に対する)「表現するための文法」(=統合文法)であったからである。 関口の研究の背景には,彼が30年以上にわたり収集し続けた24,502ページにわたる資料の存在がある。 本研究は,次のような目的の,より大きな枠組みを持つ研究の一環をなすものである、関口存男の文例集をもとに「表現するための文法」を記述し,これが「言語研究一般」において持つ意義を示す。 本研究は次の3点を具体的な目的とした:1)文例集を,発生の経緯,分類の状況,利用の可能性という観点から検討する,2)佐藤によりカード化されてある「関口研究資料」をデータベース化する,3)文例集の代表的なファイルの文例を一定の観点にもとづいてデータベース化する。 本文例集は,種々な学問的立場から利用することが可能である。しかしその本当の優値は,それが「統合文法」的に解釈されたときに現れる。その解釈には2つの可能性がある:1)「普遍的な意味内容」の「類型化」を出発点とする立場から,2)「統合文法」の「統合」を,「語→句→単文→並列文・複合文」という「統合」と理解する立場から。特に後者の観点は重要な意味を持つ.なぜなら,2つの要素AとBを「統合」するとは,その2つの要素の間に「規定関係」を生じさせることであり,語・句・文の間の「規定関係」とは「言語の構造」そのものだからである。 佐藤の「関口研究資料」,および文例集の代表的なファイルのデータベース化は,このような「統合文法」を記述する際の基礎として大きな意味を持つものである。
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