平成8年度には、イタリア、特にピ-サを中心とする北イタリアの教会裁判所と都市コム-ネの裁判所における訴訟制度の展開を、既存の研究文献及び教会関係の資料により跡づけ、両者が共に早くから明確に学識法的訴訟手続を導入しつつも、手続的細部の様々な点で相違を示すことを明らかにした。この準備作業を経て、平成9年度には、とくにシチリア王国の法典である1231年のLiber Augustalisの訴訟法規定の分析が進捗した。この分析の結果、裁判権の編成については、大幅にノルマン期の伝統に依拠していること、召喚については丁度Liber Augustalis発布の頃に集大成されはじめた学識法的訴訟法の基本原則を大枠で維持しながら、その範囲内で訴訟の能率化を図っていること、出頭の強制についても、普通法訴訟理論と比較すると高権的色彩は強まっているものの、法典発布以前の実務と比較するとむしろ被告に有利な規律がみられること、和解の可能性が普通法法源に比べて制限されていること、証拠法の面では、当時の教会法の訴訟法と比較して(理由づけなどにおいて特色はあるが)大きく異なる点はないこと、糾問手続を世俗の立法としてはいち早く導入するものの、当時の教皇庁が打ち出していた諸原則を大きく乗り越えて、被疑者の手続的権利の制限により犯罪者の刑事訴追を容易にするような傾向は必ずしも見られないことなど、多くの事実が明らかになった。今後、シチリア王国のiustitiariusの裁判所の訴訟実務の研究と共に、その人的構成についてプロソポグラーフィッシュな研究を行ない、Liber Augsutalisの訴訟法の現実的な機能について検討したい。
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