本テーマについて、米国、EUの最近の状況の比較および最新の経済分析の成果を得て、日本法のあり方を検討した。まず、米国ではこの分野の判例の展開がめざましい。とくにコンピュータ・プログラムの事実上の標準(defact standard)、標準化したドミナントな基本ソフト(OS)の独占維持行為、それをテコとした周辺分野への市場力の拡張、標準化活動について重要な判例を形成した。とくにMicrosoft事件連邦地裁・控訴審判決(1995)は事実上の標準、OSの独占維持行為および応用ソフトへのテコの拡張、ライバルを先回りした新型モデルの発表等について、Dell Computer事件控訴審判決(1996)は標準化活動の過程で組み込まれた知的財産権の行使に対する独禁法による制限について、重要な先例となった。標準化活動については、米国独禁法は目的の適法性・制限の範囲の適法性を問題にしつつ実際上標準化のプロセスの公正さを重視するアプローチをとっているが、このアプローチには参加者の利潤極大化をもたらさないだけでなく重大な社会的コストを見落としていることが判明した。類似の手法をとる日本法も再検討すべきである。さらに根本的な問題として、技術開発市場の競争の頑強さの程度および動態的競争を独禁法上どのように考慮するかが重要であるが、経済分析・法的分析とも議論は拮抗している。 本研究の理論的基礎をなす不可欠の施設(essential facility)理論については、米国のInternational Audiotext Network控連邦地裁判決(1995)が重要な判例である。さらに、上記理論の適用は米国は比較的慎重でありEUは積極的である。理由は(1)市場支配力の利潤極大化へ介入するか(EU)しないか(米国)、(2)市場との関係で相対的に大きな企業が多いか(EUの旧国営企業など)少ないか(米国)、(3)料金・契約内容への介入に積極的か(EU)消極的か(米国)があげられる。日本法は、(1)では米国と共通し、単独事業者が独自に設定した不可欠の施設に対しては米国型の規制が望ましいが、NTTの市内通話網のように規制産業や事業者が自力で設定したといえない分野では不可欠の施設の認定を緩やかにし、EU型の規制が望ましい。
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