本研究の目的は、アメリカ文明において株式会社が占める重要な地位とアメリカ・コ-ポラティズムの自発性という特質を、制度学派の祖J・R・コモンズの指摘を踏まえ、19世紀アメリカの代表的な経済思想家ケアリ-の自発的結合(アソシエーション)論を手掛かりに、始原にさかのぼって論証することであった。 初年度は次のことを明らかにした。一般株式会社法と有限責任原理の導入が一部の州で始まった1838年に公刊された『経済学原理』(第2巻)においてケアリ-は、株式会社制度の基礎である有限責任を、合衆国憲法の「結社の自由」に立脚して主張し、株式会社を市民の自発的協力と相互信頼の実践の場として捉えた。J・S・ミルが、労働者階級の地位の改善と人間的資質の向上を図る手段として株式会社を評価する以前のことであった。 今年度は、自発的結社としての株式会社の有限責任制と一般会社法の法制化を説くことによって、いわば仏を作ったケアリ-が、同時に、銀行設立の自由化(free banking)を提唱することによって、いわば魂を入れた点を、明らかにした。社会的結合あるいは社交性の道具としての貨幣・銀行制度、「信頼」にもとづく銀行券の発行、というケアリ-の貨幣哲学に彼の「アソシエーション」思想の精髄が見られる。 当初の年度計画ではペンシルヴェニア憲法改正会議(1837-8;1872-3)議事録を通じて株式会社解禁の是非をめぐる世論動向を分析する予定であったが、膨大な量の資料を入手、整理し、ノートをとるだけで手一杯で論文執筆は今後の課題としたい。
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