本年度は、インドネシアのジャカルタ首都圏を中心に、現地で過去3回(1991年、1995年、1996年)にわたって収集した調査データに基づいて、日系中小企業と現地資本の小規模企業の労働市場、それに建設業日雇い労働者の雑業的労働市場の特質について分析した。明らかにしたえ諸点を要約すれば、以下のようである。 1、ジャカルタ首都圏では、外資系ならば中小企業といえども高学歴者が参入する最上位の労働市場に位置し、以前に検討した大手企業と類似した入職条件や就業の特徴をもっている。 2、現地資本の小規模企業の労働市場では、出稼ぎ型の地方出身者が多数就労していること、雇用形態としては請負制や長期日雇いであり、労働条件や労働保証の点で不安定であること、上位の労働市場で職を得られない高学歴者も参入していること、などを確認した。これらの事実から、その労働者は、都市部労働力の底辺に分厚く堆積する不安定就業階層の一部分を構成しているものと考えられる。 3、建設現場の日雇い労働は、都市インフォーマル労働の典型的な職種であり、農村の下層・雑業層を主な供給源とし、低学歴者の不熟練・単純労働市場を形成していること、農村のネットワークに強く依存していること、市場の閉鎖性ゆえに上位労働市場への移動は極めて困難であることなど、他の都市の雑業と共通した特徴をもっている。 経済開発の進展とともに、労働市場の格差構造が一層明瞭になっており、今後は、その内部編成と変動の分析を通して、都市労働市場の全体像を明らかにしていく研究が是非とも必要である。
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