本研究の目的は、本土復帰前の米国統治下を対象にした『戦後沖縄社会経済史研究』(東京大学出版会)に次ぐもので、復帰後の本県社会経済構造がどのような変容を遂げたか、また将来の自立的発展を推進するうえでどのような可能性があるかを検討することにあるが、アプローチの方法として、まずは本土復帰実現に至る過程の考察から始め、その後に類似県との産業構造の比較分析を行い、終章で地方自治の在るべき姿を検討することにした。本研究ではとりわけ、類似県-島根・徳島・高知・佐賀・宮崎の5県-との比較分析を通じて本県経済が国民経済の中でどのような状況におかれているかを浮彫りにすることに意を用いたが、これまでの研究成果の一部を列記すると次の通りである。先ず以て目を惹くのは類似県に比べ、第一次および第二次産業部門の比率がともに低く、第三次産業部門の肥大が著しい点である。これは、本県経済が本土復帰後、基地依存型から観光依存型へと性格を大きく変えたことと、農業部門の基幹産業である蔗糖およびパイナップルが農産物自由化の煽りを受けて衰退を余儀なくされたことによる。ところで、本県経済は外部依存性が高いと一般に言われているが、これは全くの誤解であることが判明した。移輸出依存度(移輸出/県民総生産)および移輸入依存度(移輸入/県民総生産)とも、類似県に比べはるかに低いのである。産業連関表の比較分析の結果、本県の移輸入誘発係数、つまり需要の県外流出の度合いは、類似県に比べて決して高くないことも判明した。従って問題は、需要の県外流出にではなく、総需要に対する県外需要の寄与率の低さ、要するに需要の県内誘引の弱さにあることが明確になった。また大方の予想を裏切って、本県の労働生産性は類似県より高いことも判明した。ただし、鉱工業生産部門に限って言えば、本県の付加価値生産性は類似県並みに止どまっているばかりか、付加価値度比率が極端に低い弱点を有していることも看過してはならない。
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