研究概要 |
本研究は「EU共通海運政策」のうち特に重要と思われるEU競争政策との関係に焦点をあてて考察したものである。海運のカルテル組織である「海運同盟」は,主として1984年米国海運法や1960年代からのコンテナ輸送革命による技術平準化から参入障壁の低下と輸送用役差別化の困難性によって組織の弱体化に拍車がかかる。国際定期船海運業は海上運賃修復のために海運同盟を補完する各種の船社間協定を次々と編みだす。これら協定に対する欧州委員会競争総局(DGIV)の対応と運輸総局(DGVII)の「競争力あるEU商船隊育成政策」との軋轢をEC設立当初から現代までを克明に考察することにある。 国際定期船海運は「海運自由の原則」という国際海運秩序のもとで,「海運同盟」によって1870年代からおよそ100年の永きにわたって強力に守られて来た。欧米先進国とも「海運同盟」は当初から独禁法(競争法)適用除外とされてきた。EC競争法でも無期限に一括適用除外されている。(理事会規則第4056 86)ローマ条約設立当初海運はローマ条約第84条2項によって運輸規定から除外されていた。また競争規定の海運への適用の明確化は1974年の「国連定期船同盟行動憲章条約」採択によるEC構成国の行動の不一致を契機とする。この条約への批准とローマ条約接触問題回避を意図したものがブラッセルズ・パッケージ(理事会規則第954/79)である。しかし欧州委員会が共通海運政策樹立に本格的に動くのは1985年以降のことである。海運同盟弱体化以後の船柱間のカルテル組織はユーロ・コート協定,コンソーシアム協定(委員会規則第870/95),コンテナ輸送の進展にともなう共通内陸運賃設定協定(現在欧州委員会競争総局との間で法廷係争中)などがある。
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