研究概要 |
円高・バブル期以降における生産拠点の海外移転やバブル崩壊後の不況長期化によって,産業空洞化への懸念が高まっているが,政府や財界の構造調整論やアジア・ネットワーク論は,日本の経済発展を支えた産業地域の役割を不当に軽視し,アジアの成長を過大評価することによって,今日の危機の本質を見誤っている。そこで,世界有数の自動車生産基地である西三河産業地域と,高度の加工技術を持つ専門零細企業の高密度集積によって,日本の機械工業のイノベーションに寄与してきた大田区産業地域を採りあげ,不況長期化の影響を分析した。1)西三河では,国内生産の縮小によって系列の見直しと「脱自動車化」が進展している。しかし,二次下請け以下では,資本蓄積の条件を奪われて対応できない。2)大田区では,製造集積の長期的縮小の加速と企業淘汰が進み,特に新規創業の困難性と中規模企業の不安定性が深刻である。その結果,零細専門企業ネットワークが解体され,技術基盤が崩壊する危険に直面している。従って,基盤的技術を担う中小企業に再生産可能な単価を保障するシステムの確立を前提にして,地域的関連集積と基本的生活手段の充実とによって,今日の新しい技術条件に柔軟に対応し,地域全体としてコストを削減し,品質の向上と技術革新をすすめる地域メカニズム=社会的生産基盤の再建が重要である。とりわけ,クローバル化によって中央政府の役割が後退した今,自治体の役割が重視されるのは当然であるが,不特定多数に対し平等の原則で展開される自治体の産業振興策は,重大な岐路に立たされている。3M運動など先進的な地域産業政策を展開してきた墨田区も例外ではない。社会的生産基盤の中核となるライフエリアの整備など「まちづくり」と地域産業の連携をはかる需要創造型の支援体系の確立が必要となろう。
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