「ドイツ世襲財産とヨーロッパ農村社会」に関する研究径過と成果は、およそ以下のとおりである。(a)図書整備については、とりわけ「ドイツ農村社会と東エルベ土地制度史」に即して、W.レ-ゼナ-のグルントヘルシャフト論、あるいは、W.シュパッツやA.ハネマンのベルリン近郊農村史などの新刊書や古典的文献の収集と整理に努めた。(b)図書館・文書館調査は、国会図書館(日本)、ベルリン・フンボルト大学図書館とベルリン・アメリカ記念図書館、そしてベルリン文書館などを中心に行った。(c)研究発表としては、初年度の1996年に、ベルリン・フンボルト大学とベルリン自由大学共催の日独比較シンポジウムにおいて、Agrarentwicklung und Agragesellschaft in Japan seit Dem Zweiten Weltkriegと題する「日本農業と農村社会の歴史」を追求した報告の機会を得、さらに、次年度の1997年には、フンボルト大学主催のローター・バ-ル教授退官記念コロッキウムの席上、日本におけるドイツ近代経済史研究ならびに日独交流の現状について、報告と挨拶を行う栄誉に浴した。 こうした研究経過の中で、わたくしは、(1)世襲財産のみならず、より広く、(大)土地所有全般に着目する必要性、そして、(2)ヨーロッパ全域への目配りは、もとより不可欠ではあるが、わけても、東エルベのいわゆる「黒海・バルト海地帯」への地理的画定に意を注ぐことの重要性、さらに、(3)言わば「農村の問題としての農村の問題」ではなく、それを、都市化なかんずく市町村合併(Eingemeindung)との関連に止目して、都市と農村の具体的な関係に留意することの意義に、次第に気づかされてきた。そこで、当該研究においては、主として、前述のW.シュパッツの古典的著作に即しつつ、ベルリン・Teltow郡在「都市近郊農村」Vorortgemeinde史の全容解明に迫るためのささやかな一歩を印すことにより、現在予定の「東エルベ農村社会とドイツ農村・都市関係史とりわけ都市近郊農村史の実証的比較研究」に進む上での準備作業にしたいと想う。
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